俳句もどき
義兄は全国的にも有名な俳句サイトを運営していて、「花鶏」という俳句結社に属していて角川書店から「風紋」という句集も出して活発に活動している俳人だ。
筆者は俳句の素養は全く無く、単に5,7,5の文字を並べるだけだが、お遊びで作った「俳句もどき」を公開してみた。
- 母は2022年9月で106歳。本人は「いつまで人間やってないといけないかね〜。」という。
106ももうあきの日の苦笑い
- 夕焼けの逆光の土手を歩く人を見上げると暗黒の空洞に見えた。
夕焼けに人型に開く異界あり
- 水面をスイスイと自由に進むアメンボウは水遁の術を超える。
忍者にも見習えとばかりアメンボウ
- 大分市元町の磨崖仏は非常に整った造形で美しいが、残念なことに両手が欠け落ちている。
救う手も失くして梅雨の磨崖仏

元町磨崖仏(大分市)
- まだ、盛んに囀る季節にはなっていないのか。
鶯も間合い充分声を上げ
- コロナ禍で家に籠り勝ちになると筆者のように物を造るのが趣味の人間の家は自作の物で溢れる事になる。
春の日々ハンドメイドが山をなし
- 雲一つ無い茫漠とした空に飛行機雲を残しながらジェット機1機、音も無く孤独に進み続ける。
青空に孤独の旅路飛行雲

- 70を超えるとつまらないことに挑戦して見たくなる。
冬晴れに裸で挑む古来稀
- 寒い中、背中を丸めてそそくさと歩いて来たら赤信号。ホッと一息つく。
寒風にホッと休めの赤信号
- サングラスで強くなったような、守られているような、世間から一歩引いたような気になる。
サングラス掛けて世間を見下ろしぬ
- 野良猫も人も日向を求める。
寒の路地猫と日向を争いぬ
- 流星が暗黒から突然現れてまた暗黒に吸い込まれる。
流星の溶け込む空の深さかな
- 頭上に張った蜘蛛の巣と蜘蛛の影が空を切り取ったよう。
青空を切り抜く影や秋の蜘蛛
- 姉は73歳で他界したが、洋裁や手芸の達人だった。もう使われない竹尺が残る。
秋の日に姉の技待つ竹の尺
- 黒々とした峰の陰が夕焼けを遮る。
夕焼けを深く切り裂く陰の峰
- 海岸の岩場に座るとフナムシの集団がサッと遠ざかる。
フナムシや間合い微妙に同席す
- 納涼お化け大会も暑さに負ける。
お化け達集めてみてもこの酷暑
- 池の亀が時々顔を出す。
時々は浮世窺い夏の亀
- 霧の道路から突然現れる人影。
ブレーキに冷や汗もある夏の霧
- ミミズは眼が無いので手探りで進む。
大ミミズ探り当てたか己が道
- チョロチョロっと走っては一瞬とまるが瞬く内に走り去る。
カナヘビのストップモーション刹那的
- 海の岩の上に立つ灯標は夏の日光を浴びて焼けている。
灯標も水浴びしたい灼ける昼
- ダンプの駐車場でダンプ軍が荷台を跳ね上げて(おそらく雨水が溜まるのを避けるため)列を作っている。
ダンプ軍西日に構え荷台盾
- ローカル線の駅に赤いディーゼル車両と黄色いディーゼル車両が停車している。「止まれ」か「注意」か。
歩み停め赤黄の二両夏の駅
- 静かな林の中に五百羅漢がにぎやかに並んでいる。
緑陰に五百羅漢の笑い声
- 地面に大きな木の影。
大木も押し花にする春の影
- 巫女の赤白の衣装と赤とんぼが似合う。
赤とんぼ社務所の巫女を誘い出し
- なんとなく引くのが憚られる。
秋空に周り見て引く恋みくじ
- 花筏の間に写る自分の顔。
花の屑浮かぶ隙間に慣れし顔
- 敷き詰められた花びらを踏むのは気が引ける。
花吹雪そっと踏み出す一歩かな
- 赤信号でちょっと立ち止まると秋を感じる。
赤信号刹那を憩う秋の道
- 留った蜻蛉にもう少し近づこうとするとスッと飛び立つ。
もう待てぬとばかり飛び立つ蜻蛉かな
- 雨宿りの軒を出ると眼の前に巨大な入道雲。
軒を出て入道雲にのけぞりぬ
- 猛暑の道路の照り返し、早く通り抜けたい。
照り返しあごに受け止め道急ぐ
- 夏は元気なスマートなカナヘビ。
カナヘビのすらりと伸びて夏を浴び
- これは川柳。筆者の下手なチェロの音。
弓引けば耳を突き刺す音矢かな(川柳)

- チェロの演奏の彫像を見て。
彫刻の弓の奏でぬ春の歌
- 空に天井があるように、ある高さまででとどまる雲雀。
雲雀にはまだ空の高さ欲し
- 70際を越えた義兄はスポーティーな自転車で県内を走り回る。
風切りて7段ギアの古希の冬
- 透明な池の中に鯉が重なって泳ぐ。
寒鯉の影を重ねて水清し
- 塀の上のカナヘビの日向ぼっこ。
カナヘビも小春日和の塀の上
- ゴミが絡まったまま水位が下がってしまった。
水涸れにゴミ纏い立つ水位塔
- 見えるか見えないかの遠くで夕日に光る機影。
空遥か機影を映す夕日かな
- パラグライダーは空に吊るされている。
青空にパラグライダーのぶら下がり

- 葉の先の球形の水玉に全天が映る。
葉の先に空を集める露の玉

- 髭の行方はどうなっているのだ。
絡み合う仙人草の髭の謎
- 演奏会、楽屋を出て客の行列を見て安堵する。
行列に秋の楽屋の安堵かな
- 少しの欠けがあっても充分美しい。人生も。
足らずとも満たされて見る十三夜
- 美味しいごちそうがいっぱい。
豊作を祝いて集う雀かな
- 水面すれすれにときどきしっぽを水に浸けながら飛ぶ蜻蛉。
水面の間合いの巧み蜻蛉浮く
- 暑苦しい夏も何処かへ行ってしまった。
気がつけばつくつくの声止みており
- 夏の露店に招き猫が置いてある。
相席に蠅の賑わい招き猫
- 猛暑に更に暑苦しさを加える。
クマゼミの鳴いて熱気に油注ぎ
- クサグモが獲物を待つ。
葉を結ぶ糸に謀りの蜘蛛潜み
- 茂りすぎた紫陽花。
紫陽花に行く手阻まれ回り道
- いつまでも纏わりついてくる。
まくなぎの誘い振り切り帰路急ぐ
- 超高齢の一人暮らしの母の家に訪れる。
母の日はカメラ片手にお茶に菓子
- 新緑の陰からでると自分の影がくっきり。
新緑の陰より出でて影を踏み
- こちらのカメラの存在も気がついている。
川鵜の眼レンズも確と捉えおり
- 夫婦岩と呼ばれて愛でられるが、ただ見つめ合うだけでは・・・。
夫婦岩ただ見つめ合う春の宵
- これは川柳。夫婦岩と言われて愛でられているが、本人達は手もつなぐことができない、哀れ。
近けれど手も繋がれず夫婦岩(川柳)
- これが、さくらんぼだったら、と思うのは筆者だけか。
実にあらず花ぞたわわに八重桜
- とみに、物忘れが多くなった今日この頃。
約束を忘れな草に訊いてみる
- 水上をスイスイ進むアメンボも時には。
アメンボも取り付く島の花の屑
- 春爛漫。
木も草も空にも春の陽の満てリ
- 岬は花盛り。
タンカーに春の知らせの岬かな
- 夫婦岩も春霞で影が薄くなっている。
寄り添うて霞に老いる夫婦岩
- たんぽぽの綿毛を弾いてみる。
たんぽぽの種それぞれに旅立ちぬ
- やっと暖かくなってきた。
三寒が四温寄り切る今朝の空
- 香りにふと見上げる頭上の梅。
梅の香や鼻膨らませ仰ぎ見る
- 影を作る太陽の暖かさが身にとみる。
裸木を歩道に映す陽の恵み
- 裸木の影が道路にくっきり。
立ち上がる街の影絵の寒暮かな
- 「地獄」呼ぶが、厳寒には立ち上る熱気が嬉しい。
厳寒や地獄の熱の有りがたき
- 新年の誓い、凧の眼が三日坊主に終わるのを睨む。
三日坊主諌むる凧の眼あり
- 正月に初詣の神社の池の鯉も祝う。最も気に入った句
振り袖の鯉も浮世に御慶かな
- 野良猫が寝ているところにうっかり踏み込んだ。
枯れ芝を踏みて野猫に咎めらる
- 年末に第九を歌う。
客席の妻と第九を分かち合い
- 年末に第九を歌う。高齢の母が客席に一番乗り。
客席の母に第九をとどけたり
- デパートのエレベータのドアが開くと、もうクリスマスセールが始まっていた。
エレベータドアの向こうはクリスマス
- パラリ・・バラリ・・・と落ちる。
落ち葉にも間合いの美学ありにけり
- 30年ほど毎年年末に第九を歌ってきました。
名曲を終えて晴れやか舞台立つ
- 稲妻で一瞬行く手が明るく照らされるが脚が出ない。
稲妻に行く手照らされ立ち尽くす
- 七色に測る蜥蜴が一瞬で流れるように去る。
七色に蜥蜴の縞の流れ去り
- 旅の宿に蟋蟀が入ってきた。二重サッシの我が家ではない。
蟋蟀も非日常の宿の夜
- 葉の化石は地質時代からの便り。
化石葉の秘めし伝言読む秋日
- 石碑に青い柿が落ちている。
石碑にも風の供えの青き柿
- 盆の月も望遠鏡で眺めると山あり谷あり、山影や谷には闇がある。
盆の月闇を刻めるクレーター

- 本当に心がこもっているのか。
盂蘭盆会猫も杓子も手を合わせ
- 安倍首相の終戦記念日の演説の虚しさ。何が「国を守る気概」だ。自分は売国組織と手を組んでいた。
虚ろなり首相の言葉澄みし空
- 戦争の惨禍を忘れてまたぞろ軍拡に向かう愚かな政府。
B29を忘れて蜻蛉の空虚し
- 本当に難聴になりそう。
難聴が心配になりセミの森
- 天牛も衣の下に剣を持っているのではないか。
天牛の衣に隠す剣あり
- ホッ。
セミ去りてようやく得たりこのしじま
- 烏瓜にも悩みがある?
烏瓜思いは花の乱れ髪
- 母が108で亡くなった。
百八の花を見ずして旅立ちぬ